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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)3082号 判決

原告

株式会社金子工務店

右代表者

金子松世

右訴訟代理人

佐藤寛蔵

岡田優

山下純正

吉村茂樹

右訴訟復代理人

赤尾時子

被告

北星不動産株式会社

右代表者

祖父江幸男

右訴訟代理人

松浦登志雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、別紙物件目録記載(一)の建物についてなされた同登記目録記載(一)の登記及び同物件目録記載(二)の建物についてなされた同登記目録記載(二)の登記の各抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、自らの材料をもつて建築工事を行い、昭和五五年七月一八日、別紙物件目録記載(一)、(二)の建物(以下、合わせて本件建物という)を完成させ、原始的にその所有権を取得した。

なお原告は建築請負業を営むものであり、同年四月三日訴外日成興産株式会社(以下、日成興産という)から分譲住宅四棟の建築工事を、原告が木材等の資材を提供する条件で請負代金総額二五三〇万円(内訳一、三、四号棟各六三四万一二五〇円、二号棟六二七万円、但し合計額の一万円未満切上げ)で請負い、右三、四号棟は同年七月一八日完成し日成興産に引渡したが、本件建物である右一、二号棟は、請負代金の支払が全くないため、引渡を留保しているものである。

2  ところが、本件建物の別紙物件目録記載(一)の建物については同登記目録記載(一)の、同物件目録記載(二)の建物については同登記目録記載(二)の、各所有権保存登記がなされている。

3  よつて原告は被告に対し、右各登記の抹消登記手続を求める。

二  被告の請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち、原告と日成興産との間で請負代金額を除き原告主張の建築工事請負契約が締結されたこと、原告が資材を提供し本件建物を含む分譲住宅を完成させたこと(但し、本件建物が完成した日は昭和五五年九月末)、原告主張の三、四号棟を日成興産に引渡済みであることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は認める。

3  本件建物を含む分譲住宅四棟の建築工事については、被告が日成興産に発注し、同社との間で請負代金総額二四〇〇万円、代金の支払は契約成立時二〇〇〇万円、上棟完了時残金四〇〇万円の約で請負契約を締結したものであり、被告は右訴外会社に対しその代金を約定どおり完済し、本件建物を同社から前記建物完成頃時引渡を受けた。

原告は、右日成興産から右建築工事を下請したものであつて、日成興産の履行補助者にすぎず、自らの資材で建築工事を行つたとしても本件建物の所有権を取得することはあり得ない。

したがつて、原告と日成興産との間に請負代金の未払があるか否かにかかわりなく、原告は本件建物の所有権を原始的に、もしくは本件建物の所有権を原始的に取得した日成興産から本件建物の引渡を受けたことにより、承継的にその所有権を取得したものというべきである。

仮に然らずとしても、原告と日成興産との間の請負契約書(甲第二号証)には、契約が解除された場合は解除時の工事出来形部分は発注者の所有になる旨、又注文者が請負代金の支払を遅滞した場合請負人は違約金を請求し、目的物の引渡を拒める旨、それぞれ完成した建物の所有権が注文者に帰属することを前提とした定めがあるから、仮に原告と日成興産との間で請負代金が未払となつているとしても、右約定により注文者である日成興産が本件建物の所有権を取得したものというべきであり、しかして被告は、前記のように右日成興産から本件建物の引渡を受け、その所有権を取得したものというべきである。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、被告は本件建物を含む分譲住宅四棟(本件建物はそのうちの一、二号棟と称するもの)の建築工事を日成興産に注文し、昭和五五年一月一七日、日成興産との間で(但し、日成興産は建設業の許可を受けている関連会社の訴外日成造営株式会社の名で契約)請負代金総額二四〇〇万円で請負契約を締結し、日成興産は同年四月四日、原告との間で右工事につき請負代金総額二五三〇万円(各棟の内訳は原告主張のとおり)で請負契約を締結したこと、右各請負契約において、建築工事はいずれも資材全部を請負人側が提供してなすものとされており、原告は資材全部を提供して右建築工事を行い、同年一〇月一二日頃、本件建物を含む分譲住宅四棟全部の建築工事を完成させたこと、被告は日成興産に対し約定により前記契約時に請負代金二〇〇〇万円を支払い、同年六月二一日に残金四〇〇万円を、後記認定の協定による収益分配金と相殺し完済したこと、しかし右原告と日成興産との間の請負契約において請負代金の支払を二棟分ずつにまとめ右代金を二分し、一方は契約時の同年四月四日に三〇〇万円、同年六月一〇日の上棟時に中間金三〇〇万円、完成時に六六五万円、他方は同年五月一〇日に三〇〇万円、同年七月一五日の上棟時に中間金三〇〇万円、完成時に六六五万円と、出来高に応じて支払う約定になっていたが、日成興産は原告に対し同年四月四日に小切手、約束手形額面合わせて三〇〇万円、同年八月頃支払期日同年一二月三〇日の約束手形額面二五〇万円、同年一〇月頃支払期日昭和五六年二月頃の約束手形二通額面合計五〇〇万円、昭和五五年一二月一七日に現金二〇〇万円それぞれ支払いもしくは交付しただけであり、しかも右のうち同年八月と一〇月に交付した約束手形は不渡となつたこと、そのため原告は、建築工事完成後も日成興産に対する本件建物の引渡を留保し未だその引渡をなしていないこと、ところが日成興産は、原告に無断で本来原告が発行すべき本件建物の登記手続に必要な工事完了引渡証明書を同社名義で作成し、他の必要書類と共に被告に交付して、同年一二月一日右建物の表示登記をなし、同月五日被告名義で所有権保存登記をなしたこと、以上の事実が認められ(但し、原告と日成興産との間に請負契約が締結されたこと、原告が資材を提供して本件建物を含む共同住宅四棟を完成させたこと、及び右各登記のなされていることは当事者間に争いがない)、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二そこで、進んで原告主張のように原告が本件建物の所有権を建築工事完成により原始的に取得したものかどうかについて検討するに、〈証拠〉によれば、本件建物を含む分譲住宅四棟の建築工事は、被告と日成興産の間に、日成興産が土地を提供し、被告が建物を建築して、日成興産の名で土地付分譲住宅として共同販売し利益を分配するとの協定に基いて実施されたものであつて、右分譲住宅の敷地は日成興産が買収し所有しており、被告が右分譲住宅四棟の建築確認を得ていたこと、原告は本件建物等が土地付分譲住宅として販売されることを承知してその建築工事を請負つたものであり、日成興産は右分譲住宅の購入希望者を募るため業者に依頼してパンフレットを配布し、建築工事中の同年八月頃には三、四号棟の購入希望者と売買契約を締結したこと、原告は右買受人の希望に応じて右三、四号棟の建物完成前からその手直し工事などを行つていたこと、そして建築工事完成後、先のとおり請負代金が全額未だ支払われていないにもかかわらず、日成興産に窮状を訴えられ強く懇請されたためとはいえ、三、四号棟の工事完了引渡証明書等を同社に交付して右各棟を引渡し(この引渡をなしたことは当事者間に争いがない)、前認定の一、二号棟の表示登記、所有権保存登記と同時に同様登記をなし、同年一二月一九日、三、四号棟の買主に所有権移転登記をなしたこと、ところで、原告と日成興産との間の請負契約書(甲第二号証)によると、注文者が請負代金の支払を遅滞したときは請負人は違約金を請求することができるほか建物の引渡を拒むことができ、この場合請負人が自己の物と同一の注意をして管理してもなお目的物に損害が生じたときは注文者の負担となるものとされ、又注文者、請負人の相手方の債務不履行等によつて請負契約が解除されたときは、工事の出来形部分は注文者の所有として協議のうえ精算するものとされていること、被告と日成興産の間の請負契約書(乙第四号証)にも同様の約定があること、なお前認定のとおり、原告は日成興産との間の請負契約において出来高に応じて請負代金が支払われる約定となつていたところ、原告は、本件建物完成時頃までに、決済された額面合計三〇〇万円の約束手形、小切手と、当時未だ不渡となつていない額面合計七五〇万円の約束手形を請負代金の支払のため交付を受けたほか、日成興産が同年一一月一七日に不渡を出して倒産した後に、先のとおり現金二〇〇万円の支払を受け、更に請負代金の支払確保のため、本件建物の各敷地二筆合わせて219.68平方メートルを同年一一月一五日売買を原因として同月二二日に所有権移転登記を受けたこと、本件建物の土地付分譲住宅の販売価格は、前記パンフレットによると、二棟合わせて四六〇〇万円であること(但し右土地は、債権額四〇〇〇万円の抵当権の共同担保となつている)、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の諸事実に、前認定の事実を合わせ考えると、本件建物の建築工事をめぐる請負契約においては、本件建物が完成すると同時に、引渡を待つまでもなく注文者にその所有権が帰属するものと解するのを相当とする。

そうすると、原告が本件建物の所有権を有することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるといわねばならない。

三よつて原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (佐々木寅男)

物件目録、登記目録〈省略〉

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